……ん? 何ですか? ……はあ、二次作家さんですか? で? 何のようですか?
……はっ? 私を主役に一本書かせてほしい? はっ! どうせネタはカレーとかカレーとかカレーなんでしょう?
……えっ? 違う? じゃあ何ですか? ……えっ? それはちょっと…だって私は……えっ。遠野君の入浴写真?
馬鹿な! 今の遠野家のセキュリティーを越えて盗撮なんて! ……えっ? 盗撮でゃなく『闘撮』? なんですか? それ…。
って!? これはマジで遠野君の……! いいでしょう。私を主役にした作品を書くことを許可します。ええ、許可しますとも。
で? 用件はそれだけですか? ……なら帰ってください。私は今、カレー作りで忙しい…えっ? カメラもう回ってる?
ちょ!? 何、回してるんですか!? またカレー狂とか言われて――
ぶつん!
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「う〜ん……今日もいい天気ですね」
午前六時。シエルは布団から起き上がりカーテンを開けた。すると、外から気持ちのいい朝日が部屋に差し込んで――
「やっほ〜♪ シエ――」
シャッ!
シエルは急いでカーテンを閉めた。
「え〜と…疲れてるみたいですね。もう少し寝ることにしましょう」
そう言ってシエルは布団に潜り直した。
「ではおやすみ――」
「ちょっと! バカシエル! 開けなさいよ!」
「幻聴。幻聴です」
「幻聴じゃないわよ! 起きなさいよ、このカレー馬鹿!」
ぶちっ!
シエルは布団から起き上がり再びカーテンを開け、窓も開けた。
「カレー馬鹿言うな! このアーパー吸血鬼!」
シエルは町中に響き渡るような怒声をアルクェイドに向けて発した。
その表情は阿修羅のように怒りの色に染まっていた。
「なら最初から開けなさいよ」
「玄関から訪ねるという選択肢はあなたにはないのですか?」
「玄関から訪ねたら開けてくれたの?」
「いえ。開けません」
「なら変わらないじゃないの」
アルクェイドは頬を膨らませて怒りの表情を作った。
しかし、怒りというよりも子供が駄々をこねているように見えるのは気のせいではないだろう。
「で? 何用ですか?」
シエルはこの吸血姫のアーパー加減に疲れを覚え、さっさと用件を済ませて帰ってもらおう、と思った。
「志貴知らない?」
「遠野君? いえ、知りませんけど……」
「そう? ならいいわ」
そう言ってアルクェイドはその場から離れようとした。
「待ちなさい。遠野君に何かあったのですか?」
シエルは去ろうとした彼女を呼びとめた。
アルクェイドが帰っていったら寝直す気でいたが、志貴のこととなると話は別だった。
「ん〜。今日は私とデートの約束だったんだけど、待ちきれなくて迎えに行ったら部屋に居なくてね? 妹やメイドに聞いても知らないって言うし…」
「で? 私のところへ来た、ということですか」
「そう」
志貴に何かあったのかと思い呼び止めたらさり気なく惚気られたのでシエルは頭痛を覚えた。
(このアーパーに付き合うと私の脳までアーパーになりそうです…)
「もういいです……帰ってくださっても結構ですよ」
「何よ。そっちが呼び止めたくせに」
憎まれ口を叩きながらアルクェイドはその場を去っていった。
「貴重な朝を無駄に過ごしてしまいました……」
心底損したような声と表情を浮かべるシエル。
アルクェイドとの会話はほんの五分程度だったが、彼女にしてみればその五分すらアルクェイドに消費されたというのが嫌なようだ。
「さて。アーパーのせいで目も冴えちゃいましたし……とりあえず朝ご飯にしましょうか。セブン!」
自分の下僕もといパートナーを呼ぶシエル。しかし。
し〜ん……
「あ、あれ?」
普段であれば呼べばすぐ駆けつけてくる彼女が来ない上に返事もしない。
シエルは妙だ、と思いセブンのいる押入れを開けた。
「いない……」
そこにセブンの姿は見えなかった。
「おかしいですね……第七聖典はここに…あれ?」
振り返ったシエルは唖然とした。
何故なら第七聖典を保管しているアタッシュケースが無くなっているからだ。
「あれ? ない、ない、ない!? 何故ですか! 昨日まで確かにここに……」
昨日置いてあった場所の周辺をくまなく探すシエル。しかし聖典は見つからず、家中を探したがやはり見つからなかった。
「何故……はっ!」
シエルはもしや乾家では、と思い。黒サングラスにスーツを着こんで乾家へと向かうことにした。
「ななこ? いや、着てないっすけど……」
「そ、そうですか? 失礼しました……」
第七聖典は乾家に来ていなかった。
「おかしいですね……。あそこ以外であの子が行く場所といったら…どこでしょう?」
シエルはななこが行きそうな場所を乾家しか知らなかった。
別に第七聖典がなくとも大抵の異形は黒鍵だけで倒せる彼女だが、この町はすでに二十七祖のうち三名が来ている。
もう来ないという保証はなく、二十七祖クラスが相手では彼女もさすがに第七聖典がなくてはきついのだ。
「はやく見つけないといけませんね……」
ぐ〜
「あっ」
ななこを迎えに行くために朝を抜いてきた彼女はお腹を鳴らした。
幸い、周りに人はおらず、音を聞かれて恥ずかしい思いをすることはなかった。
が、それでもお腹を鳴らしたこと事態に恥ずかしがっているのか、シエルは僅かに頬を赤く染めていた。
「とりあえずお腹を満たすことにしましょう」
シエルは家にある作り置きのカレーを食べるために家へと帰って行った。
「……」
家に帰ったシエルは玄関の前で呆然と立っていた。
「か、カレー鍋が……」
業務用の鍋で作ったカレーが鍋ごと消えていたのだ。
「朝は……朝はちゃんとありましたよね…」
フラフラと台所へと歩いていくシエル。
ぺたぺたと台所を触るが、カレーが戻ってくるはずもなく。シエルはその場で座りこんだ。
しばらく俯いて座っていた彼女だが…。
「……ん?」
自分の近くにあるものを発見した。
シエルはそれを拾って両手で伸ばして自分の目の前に持ってきた。
「栗色の髪の毛?」
それは長い栗色の髪の毛だった。
「…………ああ、はい。彼女ですか…そうですか、そうですか…」
ゆらりと立ち上がるシエル。
彼女の後ろには真っ赤な炎が立ち上がり、全身からは黒いオーラが出ていた。
「今まで見逃していましたが……今日という今日はもう見逃しません」
シエルは法衣に着替えると、数本の黒鍵を懐から出し、指に挟んで外へと出ていった。
「やりましたね。さつき」
「そうだけど……よかったのかなぁ…こんなことして」
「何言ってるのよ。実行しようって言ったのはさつきじゃない」
路地裏にてさっちん・シオン・白レンの路地裏同盟の三名が一つの鍋を囲っていた。
その鍋からは強烈なカレー臭が出ており、路地裏の匂いとブレンドされ、一般人だと吐き気を催す匂いを作り出していた。
「それはたまたまあのアパートの近くを通ったらおいしそうな匂いに釣られて……」
「さつき。今更言い逃れは聞きませんよ」
「そうよ」
「うう……」
「とにかくさっさと食べてさっさと逃げましょう。じゃないと――」
「じゃないと、何ですか」
「「「!?」」」
三人以外の声が別の場所から聞こえてきた。
三人は辺りを見回して声の主を探し――
「あっ! あそこです!」
シオンがビルの屋上を指差す。
そこには黒鍵を構え、三人を冷たい表情と目で見下ろすシエルがいた。
「げっ。シエル先輩……」
「やっば〜…」
「やはりあなた達でしたか。私の神聖なカレーを盗んだのは」
「ええと〜」
「その罪……極刑に値します!」
シエルは構えていた黒鍵を思い切り振りかぶって三人に向けて投げた。
「くっ!」
「きゃあ!?」
「あぶなっ!?」
飛んできた黒鍵をそれぞれ避け。
「逃げますよ! 二人とも!」
「うん!」
シオン達は一目散に逃げ出した。
「待ちなさい!」
シエルは逃げる三人を鬼気迫る形相で追いかけ始めた。
「な、何で追って…って、シオン! 何でカレー鍋持ってるの!?」
「えっ? あっ、つい……」
「つい、じゃないわよ! さっさとすて――」
「カレーを捨てる気かぁ!」
「やっぱり捨てないで!」
それから、この四人はほぼ丸一日命懸けの鬼ごっこをやっていたが、結局シオンたちは捕まりシエルにきつ〜いお仕置きを受けた。
鍋に入っていたカレーは逃げながらシオンが一人パクパク食べていたのでほとんど残っておらず、シエルは密かに涙したという。
「ていうか、ネタはやっぱりカレーじゃないですか! 騙されたぁ!」
人を簡単に信じちゃいけないよ?
PS:ななこは志貴とレンと一緒に離れでお茶してました(たまには静かに過ごしたい同盟)
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超お久しぶりです。MHPです。
ちょっと某公式サイトでSS書きまくってたらこちらに投稿ができませんでした…(汗)
今回はシエルです。月姫キャラ全体で一番好きな人なんですが、ネタはカレー。恋愛も考えたんですが、志貴に渡したくないな〜、と(笑)
ではでは。この辺で。MHPでした。
管理人より
ご無沙汰しております。
久方ぶりの投稿ありがとうございます。
・・・まあシエルといえばカレーですから。
シエル=カレーと言っても過言ではないですし。
アニメでシエルがカレーでなくスパゲッティ食べてるシーンは嘘か本当か総スカン食らったみたいですし。
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